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ひなた | 吉田修一吉田修一 『ひなた』

僕の地元は山に囲まれた地域でして、
たまに遭難救助のヘリが飛ぶのを見ました。
見慣れた外の風景を何気なく眺めていると、
突如としてヘリの音が聞こえ、北アルプスに
向かっていく機体を見送ったことがあります。

吉田修一の作品に描かれているのは、
基本的になんてことのない日常ですが、
さりげなく非日常が入れ込まれています。
「ある人の日常をテキトーに切り取ったら、
たまたまドラマチックなことが起きた」
と思わせる文章になっています。
もちろん書き手が意図的に印象的な
事件や出来事を起こしているわけですが、
読み進めていくうち、その人に起きた非日常に
偶然巡り会ったような感覚に包まれるのです。

ドラマチックさの大小は作品によって異なりますが、
『ひなた』では小さな非日常が織り込まれています。
二組のカップルの一年が、四人それぞれの視点から
描かれていますが、特に目を見張るような展開もなく、
派手なクライマックスも見当たりません。

登場人物が揃いも揃ってクールなのです。
事件が起きても、冷静に受け止めている。
非日常を日常の中にさらりと取り込んでいます。
不自然なはずのドキュメンタリーなのに、
そう思わせない映像になっていると言うべきか。

例えば、ある語り手の出生に関するくだりがあります。
そこでは感情をむき出しにするというより、
実に淡々と事実が語られていきます。
語り手以外が感情を表わすことも多少はありますが、
それほど語り手は感情を表わしません。
純愛ドラマでドラマチックに扱われる出生の秘密も、
この作品では物語の中に溶け込んでいるのです。

最後にひとつ。
『ひなた』で描かれているのは「凪いだ海面」です。
風もなくて波の立たない静かな海面です。
けれど、海の中は大きくうねっているかもしれません。
さらにずっと奥の海底には、海面からは
想像もできない何かがあるのかもしれません。
その奥底にまで潜っていきたい気もしますが…

2006.04.08
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by 4n8f | 2006-04-08 16:53 | フィクション

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