mtroom
物語みたいなものを書いてみます。
ブログトップ
カテゴリ:フィクション( 20 )
ひなた
ひなた | 吉田修一吉田修一 『ひなた』

僕の地元は山に囲まれた地域でして、
たまに遭難救助のヘリが飛ぶのを見ました。
見慣れた外の風景を何気なく眺めていると、
突如としてヘリの音が聞こえ、北アルプスに
向かっていく機体を見送ったことがあります。

吉田修一の作品に描かれているのは、
基本的になんてことのない日常ですが、
さりげなく非日常が入れ込まれています。
「ある人の日常をテキトーに切り取ったら、
たまたまドラマチックなことが起きた」
と思わせる文章になっています。
もちろん書き手が意図的に印象的な
事件や出来事を起こしているわけですが、
読み進めていくうち、その人に起きた非日常に
偶然巡り会ったような感覚に包まれるのです。

ドラマチックさの大小は作品によって異なりますが、
『ひなた』では小さな非日常が織り込まれています。
二組のカップルの一年が、四人それぞれの視点から
描かれていますが、特に目を見張るような展開もなく、
派手なクライマックスも見当たりません。

登場人物が揃いも揃ってクールなのです。
事件が起きても、冷静に受け止めている。
非日常を日常の中にさらりと取り込んでいます。
不自然なはずのドキュメンタリーなのに、
そう思わせない映像になっていると言うべきか。

例えば、ある語り手の出生に関するくだりがあります。
そこでは感情をむき出しにするというより、
実に淡々と事実が語られていきます。
語り手以外が感情を表わすことも多少はありますが、
それほど語り手は感情を表わしません。
純愛ドラマでドラマチックに扱われる出生の秘密も、
この作品では物語の中に溶け込んでいるのです。

最後にひとつ。
『ひなた』で描かれているのは「凪いだ海面」です。
風もなくて波の立たない静かな海面です。
けれど、海の中は大きくうねっているかもしれません。
さらにずっと奥の海底には、海面からは
想像もできない何かがあるのかもしれません。
その奥底にまで潜っていきたい気もしますが…

2006.04.08
[PR]
by 4n8f | 2006-04-08 16:53 | フィクション
バースデイ・ストーリーズ
『バースデイ・ストーリーズ』

「誕生日」をキーワードに集められた短編集です。

村上春樹の翻訳ものを読むのは、
『ライ麦畑でつかまえて』に続いて2作目です。

村上春樹のオリジナルほどにすぐに読めず、
こつこつ読んでいてどれがいいとかは言えませんが、
「オーケー」なんて台詞が出てくると「おっ」と思います。
オリジナルで「オーケー」と出てくるだけで、
僕はその雰囲気に酔うというか楽しくなってくるのです。
軽妙で、とてもいいリズムを感じさせてくれます。

老人がたくさん出てくるのが印象的ですが、
もっと読み込めばいろんな感想が生まれるでしょう。
センスのいいコンピレーション盤のように、
この一冊をきっかけにして、
翻訳ものをもっと読もうと思います。

2006.03.15
[PR]
by 4n8f | 2006-03-15 15:11 | フィクション
バスジャックがレジャーになったら
バスジャック三崎亜記『バスジャック』

こんな忙しい時だからこそ、
小説を読んで頭の中をリフレッシュ。

『となり町戦争』でブレイク(?)した
三崎亜記の新作短編集です。

面白かったと思います。
ブラックかつシュールな話から、
センチメンタルな物語まであって、
一冊の中の振れ幅が大きいですね。
どの路線で行こうか模索している、
とも考えられる……これは邪推ですが。

「空気感」って、大事です。

2005.11.28

■追記■
小説とは何の関係もありませんが、
TXの開通が原因で、つくばと東京を結ぶ
高速バスが瀕死の状態に陥っています。
回数券を値下げする、停車地を増やす、
といった対策を講じたみたいですが、
如何せんTXの利便性には勝てないようで、
本数は減った上に、バスの中はガラガラです。
路線バスが来るのを待っている時に
走り去る高速バスを見かけましたが、
からっぽなので回送かなと一瞬思ったら
ばっちり「東京駅行き」と表示されていました。
なんだか哀れで仕方がありませんでした。
田舎のローカル線だってもっと乗っています。

このような現実を何度も見せつけられると、
バス会社の抱く切実さも分かる気がします。
からっぽの高速バスを想像しながら読むと、
『バスジャック』の表題作が非現実的に
過ぎるとは必ずしも思えないですね…。
[PR]
by 4n8f | 2005-11-28 17:12 | フィクション
アルスラーンに幸あれ
田中芳樹 『魔軍襲来 ―アルスラーン戦記(11)』 光文社

何年ぶりの新刊かもう分かりません。
もはや10年で2冊くらいのペースか?
こうなると「はよかけ」とも言えなくなります。
まあでも待つ価値があることはあります。
ここまできたら意地でも最後まで読んでやる、
という怨念のようなものなのかもしれませんが。

思えば、1980年代半ばに始まったわけで、
20年経ってもまだ終わりが見えておりません。
大作と言うべきなのか、「怠作」と言うべきなのか…

収拾がつかなくなっているのかな?
と、要らぬ心配をしてしまいます。
(『創竜伝』もそんな感じですね。大丈夫か?)

「エンディング」を迎えるのは
アルスラーンが先か、作者が先か......

2005.11.08
[PR]
by 4n8f | 2005-11-08 17:16 | フィクション
秋の夜長に、この本を。
東京奇譚集再び『東京奇譚集』についてです。
結局、この三連休の中で読みました。

「ハナレイ・ベイ」を開くと、
一度読んだことに気づきました。
東京で就職の面接を受けた時、
友人の家に泊まらせてもらいました。
面接の朝、時間つぶしに読んだ
雑誌に掲載されていたのです。
実はその時受けた会社に
就職することが決まっており、
なおかつ『東京~』を買う前日に
人事の方からメールを頂いていました。
物事がシンクロする時は連鎖的に起きる。
そういうものなのかもしれません。

■■■
どの話も読み応えがあって面白いです。
頭の中にぱっとシーンが広がって、
イメージ豊かに読み進められました。
短いのに細切れの印象はなく、
長編を読んでいる時の
ボリューム感がありました。

「どこであれそれが見つかりそうな場所で」は、
舞台で演じられているイメージが浮かびました。
さてそこにどのような照明を当てようか。
ひそかに舞台を想像するのもまた一興、です。

■■■
秋の夜長に読書はいかが、とは、
よくある宣伝文句かもしれませんが、
それでも秋の夜長にこの本をどうぞ。

心地良い眠りにつく、と言うよりは、
ニュートラルな気持ちになって、
そのままニュートラルな眠りにつける、
とでも言うべきでしょうか。

オススメです。

2005.09.19
[PR]
by 4n8f | 2005-09-19 17:01 | フィクション
偶然、東京奇譚集に出会う
東京奇譚集村上春樹『東京奇譚集』

まったくもって偶然なのです。
髪を切って、本屋にふらっと入ってみたら、
そこに村上春樹の短編集がありました。
どうやら刊行日は明日みたいです。
昨日あるいは今日、並んだわけですね。
刊行されることなど全く知らず、これでは
村上春樹が好きだと言えないかもしれません。
でもその偶然が、なんだか嬉しいものです。

さわりだけ読んでみました。面白そうです。
腰を据えて読めるかは分かりませんが、
自分なりの感想をまた書いてみようと思います。

2005.09.17

■追記■
昨日、やたらと「偶然」を強調しましたが、
それこそがまさしく偶然でした。

各短編のタイトルを見ずに、最初の話の
10行ほどを読んで買おうと決めました。
その後、このブログに記事をアップしました。
時間をかけて読みたかったので、
この時点では開きませんでした。

夜、寝る前にひとつ読みたくなり、
最初の短編を読んでみることにしました。
その時、タイトルを確認すると、
驚いたことに「偶然の旅人」でした。
いやはや、偶然に出会った本の中身が
偶然について書かれたものだったとは。

まったくもって偶然なのです。
「ある種の不思議さに打たれる」、
と村上春樹は書いていますが、
まさしくそのような感じですね。

2005.09.18 (13:55)
[PR]
by 4n8f | 2005-09-17 15:26 | フィクション
mixiから生まれた物語
コミュニティでプロモーション企画も 「mixi」から生まれた本
SNS「mixi」が支える恋――オタクとキャリアの物語
ともにITmedia Newsより

このニュースを聞いたとき、
第一印象は「『電車男』の二番煎じ」です。
その次にライブドアがらみかと考えました。
とりあえずmixiでさわりだけ読んでみました。

なるほど、読みやすい。
これはこれで少し面白い。
難しく考えず、すらすら読めそうです。

だけど、自分は買わないと思います。
お金を出してまで読む気にはならない。

フジテレビの「ブログタイプ」という番組で
コントにされるような話だと思うのですが、
活字になった時に、果たしてどれだけの
力があるのか? という疑問があります。

文章を読んで、自分なりのイメージを
膨らませることが出来るかどうか。

ネット上の日記的物語からは、
イメージが膨らまないことが多いですし、
とりあえず展開重視なのかなと思います。
(読み手もそれを望んでいますしね)

難しいものよりも「軽い」ものが売れる。

まあ、これは仕方のないところだと思いますが、
ブログ本の乱発に行き着く先はあるのかどうか…

2005.06.08
[PR]
by 4n8f | 2005-06-08 18:38 | フィクション
小説をジャケ買い
『7月24日通り』吉田修一『7月24日通り』

もともと吉田修一の作品は好きなのですが、
この本は「ジャケ買い」してみました。
内容を立ち読みせずに、
カバーとタイトルだけを見て購入。

昨年の12月に出たもので、
冬のある地方都市の話なのですが、
梅雨時の今になって読んでみると、
また異なる世界がイメージされます。

2005.06.05
[PR]
by 4n8f | 2005-06-05 12:48 | フィクション
と戦
三崎亜記の『となり町戦争』を読みました。

導入からグッと引き寄せられて、
なかなか面白い内容でした。
最後のあたりで失速した感があり、
そこが少し残念なのですが。

語らずして語る。
待ち望んでいた表現スタイルに出会えました。

シンプルな言葉を使って、
日常らしい日常を書き留めている、
それこそブログのような表現。

そこから浮き上がってくるのは、
「リアル」とは何なのか?
という問いなのだと僕は捉えました。

となり町との戦争に参加するのは、
町内会の落書き消しに参加する
ようなものなのかもしれません。

デモとか。

「となり町との戦争」など
現実の話ではありませんが、
現実の話である裁判員制度も
困ったことにリアルな感じがしません。
税金払うのと同じ感覚で人を裁けますか?

まあ、素直に読み物としても面白いので、
だまされたと思って、ぜひ一読を。
僕も友人のオススメにだまされてみました。

2005.04.17
[PR]
by 4n8f | 2005-04-17 11:44 | フィクション
電車男の解体
BIGLOBEストリーミング
朗読劇「電車男」 予告編


…電車男って、いったい何なんだ?

書籍と映画に続き、ついに舞台化。
話題作をメディア・ミックスしているわけで、
どんどんサワヤカになっていく感があります。

顔の見えない物語が、顔の見える物語に変質。
「電車男」はもはや素材になっているんですね。
オリジナルを解体し、再構成する過程で
オリジナルにあった「ヨゴレ」がはぎ取られ、
奇妙なサワヤカさが上塗りされています。

より多くの人間に抵抗無く接してもらうため?

もし「純愛」がオリジナルに存在したとしても、
アスキーアートや2ちゃんねる用語、
そして掲示板という形式そのものにより、
絶妙にコーティングされていたと思います。

そこが2004年の純愛ブーム作品と
異なる点だったと思うのですが…

2005.03.23
[PR]
by 4n8f | 2005-03-23 12:35 | フィクション

4N8が書いていま、す
カテゴリ
音楽レビュー
フィクション
ライト・舞台
音楽配信
文章・デザイン
著作権・DRM
ライフスタイル
日常のひとコマ
そのほか
タグ
(26)
(15)
(6)
(4)
(3)
以前の記事
2009年 02月
2008年 11月
2008年 08月
more...
メイン・ブログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
そのほか